恩師田中智学先生のお言葉  令和5年9月号

2023年09月01日(金曜日)

法然上人の根本義を破す

 世界の人類は眞理の一單位であるがこれ丈ではバラバラである。まとまりがつかない。故に之を收策する力がなければならない。故に日蓮聖人は世界を國家にシボツて來た。人類も國家にシボツて來た。其處に立脚して正を立て國を安ずると云ふ。此義を沒した國家は唯人の寄り集りと云ふに過ぎない。
 論語でもバイブルでも法華經でも神代の卷でも一番深い一番徹底した考、それは印度に出やうと支那に出やうと米國に出やうと獨逸に出やうと、必ず一つのものでなければならない。其の唯一の實行機關が此日本國である。妙なる法を實行する國だから貴い。國が貴いからそれを護る人が貴い。法とは原因結果の法則を云ふ。元來法其者は常に無性であツて開放的の者である。其無性の法に味をつけたり煮たり燒いたりして、吾々凡夫にそツくり其儘食べる事が出來るやうにして呉れたのが佛である。
 だから佛法となると、立派に出來上ツた一人前の料理だ。それをその儘眞理と受け取る事が出來る其料理にありつくのは卽ち緣だ。緣とは佛種を開發すべき適當なる外界の條件を云ふ。依ツて佛種は緣より起ると云ふ。
 さらば佛種とは如何、例えば桃の種から桃が出來る。然し桃の種と同じ元素は宇宙到る處に存するのであるが桃の種以外のものからでは決して桃は出來ない。それと同じく佛性は全宇宙に遍滿してゐるが、それをしぼツて來なければ役に立たない。その「絞り」たる一念三千の觀法が卽ち是れ佛種である。
 經曰 如法常無性 佛種依緣起 是故説一乘
 家が建ツて了へば足場は要らない。立派に出來上ツた家のまわりに記念の爲だと云ツて足場をつけて置く馬鹿はなからう。依ツて、正直に方便を捨てゝ只無上道を説くと云ふ。其無上道が卽ち「一乘」である。
安國論に曰く「後鳥羽院の御宇に、法然と云ふものあり、選擇集を作れり。則ち一代の聖敎を破し、徧く十方の衆生を迷はす。」
 その選擇集の誤は左の四つに収束する事が出來る。
 一、違權實聖判 卽ち敎一の理を破る。
 二、反敎行常規 卽ち行一の理を破る。
 人間の菩提心を否定せる斷佛種の大罪。
 三、亡性惡本善 卽ち理一の法を破る。
 人間の惡心其儘が靈化して了うのが一念三千の法門である。惡を全々捨てゝ了ツては、カタワの成佛である。本佛淨土たる此世を穢土なり破棄せよと云へる謗法。
 四、失攝機徹底 卽ち人一の法を破る。
 法華經の如き難信難解の敎へは末法の機にあらずと云ふ。間違も甚しい。凡そ人間が眞面目でない時は、最も強く眞面目な事を敎へねばならない穢いからきれいにするのだ。惡いから善くするのだ。それを法然は劣ツたものは劣りついでにいくらでも墮落して了へと云ふ。人一の法門を破る。
此の敎行理人の純一を破りたる法然の感化が及び及んでこの亂世を來したのである。

               (「立正安國論の精髓」『國柱新聞』第二五七号 大正八年九月十一日発行より) 




真世界巻頭言


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